筋疲労の原因は4種類ある

筋トレなどの無酸素運動を限界まで行うと、筋疲労が起き筋肉をそれ以上動かせなくなるが、なぜ筋疲労は起こるのでしょう?

残念ながら筋疲労のメカニズムについては現在でもはっきりしておらず、明確な答えはありません。しかし、ある程度の因果関係があると分かっている筋疲労の原因が以下の4つです。

  • グリコーゲンの枯渇
  • カルシウムイオン濃度の低下
  • 活動電位の減退
  • 酸性化(アシドーシス)

これらを一つずつ説明していきます。

グリコーゲンの枯渇

筋肉のエネルギー供給経路は3種類存在し、その中でも運動強度が中程度で使われるのが“解糖系”というグリコーゲンを消費する供給系です。筋トレをすると解糖系が働きグリコーゲンを消費し、ATPを作り出します。グリコーゲンは筋肉の中にしか蓄えることができないため使い切るとしばらくは枯渇した状態になり、ATPを作れず筋肉は動かなくなります。もちろん全く動かせなくなるわけではなく低強度の有酸素運動などは可能ですが、十分な休憩により回復しない限り中強度や高強度において元のパフォーマンスは発揮できなくなります。

ATP(adenosine triphosphate):アデノシン三リン酸。生体内エネルギー通貨とも称されエネルギーの貯蔵・放出を行う。エネルギーはリン酸結合に存在しておりリン酸を分離することでエネルギーを放出する。

カルシウムイオン濃度の低下

筋肉の収縮と伸長はカルシウムイオンCa2+の濃度によって制御されています。筋肉の収縮の命令がくると筋小胞体はCa2+を放出しカルシウムイオン濃度を高めます。そうすると収縮タンパク質が結合や変形を起こし筋原線維が収縮します。簡単に言うとこれが筋肉が動く仕組みです。しかし、筋肉が高強度で働くとリン酸が発生し、リン酸がカルシウムと結合してしまいます。すると細胞内のカルシウムイオン濃度が低下し、筋肉は収縮できなくなります。

活動電位の減退

筋肉が動くメカニズムの一つに活動電位というものがあり、活動電位をうまく作れなくなると筋肉が動かなくなると考えられています。活動電位というのは、筋細胞の内外に生じる電位差のことで、これがないと筋肉に情報を伝達できず、筋肉を収縮させることができません。筋肉が動くメカニズムとして、まず脳から命令を受け運動神経の末端から神経伝達物質のアセチルコリンが放出され、筋細胞の受容体に結合します。すると微弱な電位が生じ細胞膜に存在するナトリウムチャネルが開き、ナトリウムイオンNa+が細胞内に流入することで急速に電位差が上昇し、活動電位が生じます。これに連動し筋小胞体のカルシウムチャネルが開きカルシウムイオン濃度が高まり、収縮タンパク質が結合や変形を起こすことで化学エネルギーが物理的変化を生み出し、筋原線維の収縮という形で現れます。簡単に言うとこれが筋肉が動くメカニズムです。

通常時、筋細胞の内外は、内側にカリウムイオンK+、外側にナトリウムイオンNa+が偏って存在しています。これは細胞膜に存在するポンプがATPを消費することで細胞膜内外にイオンを送り込んでいるためです。筋肉を収縮させると一時的にNa+は放出されますが、ATPを使いすぐに元に戻します。しかし、短時間で筋収縮を繰り返すことでK+が細胞外に漏れ出してしまい、ナトリウムチャネルが機能低下を起こします。それにより活動電位も発生できず筋原線維を収縮できなくなるわけです。

酸性化(アシドーシス)

酸性化とはアシドーシス(英:acidosis)とも言い、体液のpHが低下した、つまり酸性化した状態です。筋肉を酷使するとアシドーシスが起き、筋細胞のなんらかの機能が低下し、筋疲労が起きると考えられます。

前述の通り筋肉へのエネルギー供給経路は3種類存在し、高強度であれば“ATP-CP系”を使い、中強度であれば“解糖系”を使います。筋トレなどの強度の高い運動は大抵この2種類の経路からエネルギーをもらいます。そして問題のアシドーシスは解糖系の使用によって起こります。解糖系はグリコーゲンからATPを取り出しますが、その時に乳酸も発生します。乳酸は水溶液中で水素イオンH+を放出するため一時的に酸性化に向かいますが、ミトコンドリアがATPの再合成に利用するためにH+を取り込むため、すぐにはアシドーシスは起こりません。しかし、H+の取り込みが追い付かなくなるとアシドーシスが起こります。アシドーシスが起こることで、筋細胞のナトリウムチャネルやカルシウムチャネル、あるいは収縮タンパク質であるミオシンやアクチンの機能低下が起こり、その結果筋疲労が生じると考えられます。