リン脂質とは/ヒト体内での役割

リン酸をもつ脂質のこと。脂肪酸とアルコールのみで構成される単純脂質にリン酸が結合している脂質であり、複合脂質に分類される。リン脂質はグリセロールを骨格としたグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格としたスフィンゴリン脂質に分類される。

単純脂質:トリアシルグリセロール、コレステロールエステル、ロウ、セラミド
複合脂質リン脂質、糖脂質、リポタンパク質
誘導脂質:脂肪酸、ステロイド(コレステロールなど)、脂溶性ビタミン
グリセロール:炭素数3のアルコール。グリセリンとも呼ばれ医薬品や食品添加物などにも用いられる。
スフィンゴシン:炭素数18の長鎖アミノアルコール。

リン脂質とレシチンの違い

レシチンとはリン脂質を含む製品のことである。

そもそもレシチンとは、リン脂質の1種であるホスファチジルコリンのことを指しており、ホスファチジルコリン(レシチン)は、動植物中に存在するリン脂質のなかで最も多く含まれているリン脂質であった。それがいつの間にかホスファチジルコリンだけでなく、リン脂質全般をレシチンと呼ぶようになり、今ではリン脂質含有製品全般をレシチンと呼ぶようになった。

詳しくは以下記事を参照

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リン脂質の特徴

両親媒性

リン脂質は、以下のように脂肪酸からなる疎水基と、リン酸からなる親水基をもっているため、水と油のどちらにもなじむ両親媒性である。

上図は代表的なリン脂質であるホスファチジルコリンであるが、結合している2つの脂肪酸は必ずこれと決まっている訳では無いため、脂肪酸の組み合わせの数だけホスファチジルコリンの種類が存在する。
グリセロール:炭素数3のアルコール。グリセリンとも呼ばれ医薬品や食品添加物などにも用いられる。
コリン:リン脂質の一部として細胞膜を構成したり、アセチルコリンに合成され神経伝達物質として働いたり、メチル基の供給源となったりする。
飽和脂肪酸:二重結合を持たない脂肪酸で、動物性脂肪に多く含まれる。
不飽和脂肪酸:二重結合を持つ脂肪酸で、植物性脂肪に多く含まれる。

脂質二重層

リン脂質は下図のように多数の分子が集まり、脂質二重層を形成し細胞や小胞などの膜として働く。両側に親水基を持つことで大半が水分でできている間質液と細胞質の間を隔てる膜として働くことができ、内側に疎水基を持つことで親水性分子やイオンなどを透過させない遮断性も持つ。実際の細胞膜はタンパク質や糖脂質、コレステロールなども含み、複雑な構造をもつ。

リン脂質の役割

細胞膜・小胞、リポタンパク質の形成

リン脂質が形成する脂質二重層によって、細胞膜小胞の膜を構成する。また、脂質二重層は作らないが両親媒性を生かし、脂質を内側に取り込みリポタンパク質を構成する。

リポタンパク質(キロミクロン)断面のイメージ図
細胞膜:脂質とタンパク質が主要構成成分で脂質の内50%以上をリン脂質が占める。細胞膜にはタンパク質でできたチャネルやポンプがあり、細胞間コミュニケーションを担っている。
小胞:細胞内に存在する脂質二重層を膜とする球形の物質輸送・貯蔵器官。
リポタンパク質:血中に溶けるために外側をリン脂質やタンパク質で構成し、脂質を内部に取り込むことで脂質を運搬する複合体。

脳や神経組織

脳組織から水分を除いた固形成分のうち半分以上が脂質であり、さらに脂質の半分以上がリン脂質である。リン脂質を初めコレステロール等の脂質は、脳組織において細胞膜やミエリン鞘の構成成分であり、重要な役割を持つ。

ミエリン鞘:神経細胞から他細胞に出力する軸索を覆う組織で、絶縁性を高めパルスの伝達速度を高める機能がある。髄鞘(ずいしょう)とも。

シグナリング分子

リン脂質のなかでもホスファチジン酸リゾホスファチジン酸シグナリング分子としての働きも持つ。シグナリング分子とは細胞間や細胞内で情報を伝達する分子で、ホルモンやサイトカインなどがそれにあたる。ホスファチジン酸は細胞質に溶けているタンパク質を細胞膜に補充する機能があり、リゾホスファチジン酸は細胞外から細胞内へのシグナル伝達の役割を持つ。リゾホスファチジン酸に対応する細胞膜受容体は6種類が発見されており、それらはGタンパク質共役型受容体という形式の受容体である。

シグナリング分子:細胞間・細胞膜上・細胞内において情報を伝達する分子である。疎水性低分子のような透過性が高いシグナリング分子は細胞膜を直接透過し細胞内の受容体に結合できるが、そうでない場合は細胞膜上の受容体に認識されることで細胞内に情報を伝える。
受容体:細胞膜に存在するタンパク質でできた装置。対応した分子構造のみを認識しシグナリング分子等が結合すると構造を変化させるなどして、細胞内に何らかのシグナルを伝える。
Gタンパク質共役型受容体:受容体の形式の一つ。シグナリング分子が受容体に認識されると細胞内側の構造を変化させGタンパク質というシグナリング分子を活性化させ細胞内へ情報を伝達する。ヒト体内にはGタンパク質共役型受容体が300種類以上存在する。

人工的なリポソーム

リン脂質を用いて人工的にリポソームを形成し、リポソーム内にサプリメントや医薬品の成分を入れ、効果的に体内に成分を運搬する研究などもされている。リポソームとは脂質二重層によって形成され、内部に物質を取り込み運搬する物質である。細胞小器官の小胞などがこれにあたる。

リポソーム断面のイメージ図

産業資源として

リン脂質は生体内だけでなく、塗装、化粧品、製薬などの業界でもよく用いられる物質である。両親媒性であるため乳化剤界面活性剤としても働き、かつ無毒であるため食品添加物などにも使える有用な物質である。

グリセロリン脂質

グリセロールを骨格とした脂質で、グリセロールのC1位には飽和脂肪酸が、C2位には不飽和脂肪酸が結合している場合が多い。下図は代表的なグリセロリン脂質ホスファチジルコリンの構造式である。

グリセロリン脂質の例

ホスファチジン酸

他の多くの脂質の前駆物質であり、シグナリング分子としても働く。細胞内では酵素によって分解され低い濃度に保たれている。

ホスファチジルコリン

細胞膜の主要構成成分で、動植物中に最も多く含まれるリン脂質である。アセチルコリン生合成経路におけるコリンの供給源でもある。以前はレシチンとも呼ばれた。

ホスファチジルセリン

脳や神経組織に多く含まれ、ミエリンの10%以上を占める。摂取により認知機能を高める可能性がある。

リゾホスファチジン酸

ホルモンやサイトカインのような細胞間の情報伝達を行うシグナリング分子としての役割を持つ。脂肪酸が1本少ないため水溶性が比較的高い。

リゾホスファチジルコリン

リゾホスファチジン酸の基質。血漿中のオートタキシン(リン脂質代謝酵素)によりリゾホスファチジン酸に分解される。

ホスファチジルエタノールアミン

細胞膜の構成成分で、動植物中に2番目に多く含まれるリン脂質である。セファリン、ケファリンとも呼ばれる。脳から単離されたため,ギリシア語で脳を意味するケファレーから名付けられた。

ホスファチジン酸のC3位のリン酸が脂肪酸に置き換わり、C1C2C3がすべて脂肪酸で埋まると単純脂質トリアシルグリセロールになる。

トリアシルグリセロールの簡易図

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エステルについて説明

エステルとは、カルボン酸とアルコールの脱水縮合によってできる化合物である。

カルボキシ基(COOH)と水酸基(OH)からOHとHが分離して結合した水分子が離脱し、残ったCOとOが結合しエステル結合(COO)ができる。

衣料用繊維やペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)やロウなどはエステルの一種である。

※より正確に言えば、このエステルはカルボン酸エステルと言い、エステルの分類の一つである。他にもリン酸エステルや硫酸エステルなどがあるが、単にエステルといった場合このカルボン酸エステルを指すことが多い。

スフィンゴリン脂質

スフィンゴシンを骨格としたリン脂質である。下図は代表的なスフィンゴリン脂質であるスフィンゴミエリンの構造式である。スフィンゴシンに脂肪酸とホスホコリン(コリンとリン酸)が結合している。

また、スフィンゴシン脂肪酸が結合した脂質をセラミドという。アルコールと脂肪酸のみで構成されるため、単純脂質に分類される。スフィンゴ脂質の骨格はスフィンゴシンであるが、構造上セラミドも共通している。皮膚の角質層の成分としても知られている。

スフィンゴリン脂質の例

スフィンゴミエリン

体内に存在するスフィンゴリン脂質とスフィンゴ糖脂質を含めた全スフィンゴ脂質のうち85%を占める。細胞膜やミエリン鞘の構成成分である。また細胞膜においては外側の面に多く存在することが分かっている

イノシトールホスホリルセラミド

真菌類や植物に存在する。イノシトール自体は糖アルコールの一種で、動植物中に含まれるありふれた成分である。

セラミドホスホエタノールアミン

昆虫などの節足動物に存在する。セラミドシリアチンは類似体で、エタノールアミンとリン原子への結合が少し異なる。セラミドホスホエタノールアミンはリンとP-O-Cの形で結合しているが、セラミドシリアチンはP-Cの形で結合している。

セラミドシリアチン

セラミドシリアチンはセラミドアミノエチルホスホン酸とも言い、イカなどの軟体動物に存在する。

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