「滅菌・殺菌・消毒・除菌・抗菌」それぞれに厳密な定義は存在しないが、各業界で使用されている基準や表示に関するルールなどは定められている。
- 滅菌
- 意味 すべての微生物を死滅または除去し、無菌にすること。あるいは菌の存在する確率が100万分の1以下であること。
- 基準の一例 SAL≦10-6(無菌性保証水準が10-6以下であること)
- 基準元 日本薬局方
- 製品例 高圧蒸気滅菌器、滅菌済み絆創膏
- 殺菌
- 意味 微生物を殺滅すること
- 規則 医薬品・医薬部外品にのみ使用可能な表現
- 規則元 公正競争規約施行規則、日本衛生材料工業連合の自主基準など
- 製品例 口腔用殺菌スプレー、消毒液
- 消毒
- 意味 殺菌と同じ
- 規則 殺菌と同じ
- 除菌
- 意味 微生物を物理的あるいは化学的に取り除くか、減らすこと
- 基準 除菌活性値≧2
- 基準元 洗剤の除菌表示に関する公正競争規約、施行規則
- 規則 (後述)
- 製品例 洗剤、石鹸
- 抗菌
- 意味 微生物の増殖を防ぐこと
抗菌については以下の記事で詳しく解説している。
目次
滅菌の基準/無菌性保証水準とは
日本薬局方によると、最終滅菌法で無菌製剤を製造する際、滅菌後の無菌性の基準として無菌性保証水準≦ 10-6 を条件としている。
無菌性保証水準(SAL:Sterility Assurance Level)(以下、「SAL」)とは、滅菌後の製品に微生物1個が存在する確率のことで、通常10-nで表す。 SAL=10-6 であれば微生物の存在確率は100万分の1ということである。
※無菌製剤の製造法について 無菌製剤の製造法には最終滅菌法と無菌操作法がある。無菌操作法は使用する器具や設備をあらかじめ滅菌し、クリーンルーム内で作業を行い無菌環境を管理して製造する方法である。最終滅菌法は最終工程で高圧蒸気等で滅菌する製造法である。製薬を直接滅菌できない場合(例えば熱に弱いなど)、無菌操作法などが選択される。
「殺菌・消毒」表示が医薬品・医薬部外品にしか使用できない理由
公正競争規約、自主基準、国のホームページにその旨が記載されていたので、それぞれ該当箇所を引用した。
- 家庭用合成洗剤及び家庭用石けんの表示に関する公正競争規約施行規則の一部抜粋
第5条の2第2項 事業者は、合成洗剤又は石けんが除菌基準を満たすものであっても、次に掲げる表示をしてはな らない。 (1) 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)に抵触する表示(例)「殺菌」
- 日本衛生材料工業連合会が定めている除菌を標榜するウエットワイパー類の自主基準の一部抜粋
製品の容器または被包の他、パンフレット、広告、ホームページ等に以下の表現をしてはならない。 (1) 薬機法に抵触する表示 殺菌、消毒、滅菌、外皮消毒の標榜
- 厚生労働省・経済産業省・消費者庁の特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について 」の一部抜粋
【参考情報1 「消毒」と「除菌」について】 「消毒」は、菌やウイルスを無毒化することです。「薬機法」(※1)に基づき、厚生労働大臣が品質・有効性・安全性を確認した「医薬品・医薬部外品」の製品に記されています。 「除菌」は、菌やウイルスの数を減らすことです。「医薬品・医薬部外品」以外の製品に記されることが多いようです。「消毒」の語は使いませんが、実際には細菌やウイルスを無毒化できる製品もあります(一部の洗剤や漂白剤など)。 ※1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
以上が、殺菌・消毒の表示が医薬品・医薬部外品にしか使用できない理由である。
除菌の基準値と表示ルール
除菌については2つの自主基準が定められており、「洗剤類」に関するものと、「ウエットワイパー類」に関するものがある。ただし、あくまでも自主基準であり、法的拘束力は弱い。
洗剤類は洗剤・石けん公正取引協議会が家庭用合成洗剤及び家庭用石けんの表示に関する公正競争規約を定めており、ウエットワイパー類は日本衛生材料工業連合会が除菌を標榜するウエットワイパー類の自主基準を定めている。
ここで言う洗剤類とは、台所用、洗濯用、ガスレンジ用、ガラス用、トイレ用、浴室用、などの洗剤・石鹸類を指す。ウエットワイパー類は対人・対物両用の雑貨品カテゴリーのウエットティッシュを指す。
除菌の基準値(洗剤類)
製品に「除菌」の表示をするには、洗剤・石けん公正取引協議会が定めた試験方法・試験機関で試験を行い基準値を満たす必要がある。
試験は製品の種類によっていくつかあるが、おおまかな流れは次の通りである。まず、菌を接種した試験片を2つ用意し、試験液(除菌効果を測りたい洗剤)と、対照液(菌への作用がほとんどない溶液)をそれぞれの試験片に接種する。その後、一定時間放置しそれぞれの菌数を測定する。その菌数の差を除菌活性値と呼び、菌数の差が大きいほど、すなわち除菌活性値が大きいほど除菌効果が高い。菌数は膨大のため常用対数で表す(菌数1000なら3.0、菌数10000なら4.0)。
除菌活性値 =(対照液の菌数の常用対数値)-(試験液の菌数の常用対数値)
除菌活性値≧2.0が基準値である。除菌活性値=2.0は菌数を1/100に抑制する効果があり、除菌活性値=3.0なら1/1000に抑制する効果がある。また、試験に使用する菌は、黄色ブドウ球菌と大腸菌の2菌種である。この2菌種はグラム陽性菌とグラム陰性菌に分類され、薬剤感受性などが異なる。異なる性質の菌を使用することは、幅広い菌への活性を調べるためによく用いられる手法である。
表示ルール (洗剤類)
基準値を満たしているかだけでなく、表示の際は様々なルールを守らなければならない。 家庭用合成洗剤及び家庭用石けんの表示に関する公正競争規約および同施行規則によると、
- 全ての菌を除菌するわけではない旨の表示をしなければならない。(例)「全ての菌を除菌するわけではありません。」
- 健康被害を防止又は軽減する効果があるかのような誤認を与えるおそれのある表示をしてはならない。(例)「除菌で安全」「除菌で病気を防ぐ」
などが規定されており他にも細かい規則がある。
試験方法と試験機関の詳細や表示規則については以下を参照
除菌の基準値(ウエットワイパー類)
日本衛生材料工業連合会は除菌に関する自主基準を定めており、会員事業者は定められた試験方法・試験機関で試験を行い基準値を満たしたうえで除菌表示をしなければならない。
試験のおおまかな流れは以下の通りである。試験は専用の“レール”“おもり”“ガイド”を使用し、手動で行う。まず、幅2~3㎝長さ15㎝程度のレールの中央部の範囲(1.5㎝×9.0㎝)に菌液を接種する。菌液が乾いたら、試験布(=ウエットワイパー)におもりを載せてレールに沿ってスライドさせレール上の菌を拭き取る。その際ガイドを持ってスライドさせることで、試験布におもり以外の圧力をかけずに移動できる仕組みになっている。拭く速度と時間はメトロノームを用いることで一定 (5秒で5往復) にする。拭き取り後、定められた方法でレールから菌を回収し、菌数を測定する。除菌効果を試す試験布と、対照布(除菌作用のない標準的な布) でこれらの工程を3回ずつ繰り返し、菌数の平均値を出す。前述した洗剤類の除菌基準と同様で、その菌数の差が除菌活性値となる。
除菌活性値 =(対照布の菌数の常用対数値の平均値)-(試験布の菌数の常用対数値の平均値)
除菌活性値≧2.0が基準値である。除菌活性値=2.0は菌数を1/100に抑制する効果があり、除菌活性値=3.0なら1/1000に抑制する効果がある。また、試験に使用する菌は、黄色ブドウ球菌と大腸菌の2菌種である。
表示ルール (ウエットワイパー類)
- 全ての菌を除菌するわけではない旨の表示をしなければならない。(例)「全ての菌を除菌するわけではありません。」
- 健康被害を防止又は軽減する効果があるかのような誤認を与えるおそれのある表示をしてはならない。(例)「除菌で安全」「除菌で病気を防ぐ」
- 「(一社)日本衛生材料工業連合会自主基準による」旨の表示または日衛連が定める除菌マークのいずれか、あるいはその両方の表示。
などが規定されており他にも細かい規則がある。
試験方法と試験機関の詳細や表示規則については以下を参照