乳児にハチミツがNGな理由/加熱すればOK?【乳児ボツリヌス症】

なぜ1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけないのか

ハチミツにはボツリヌス菌の芽胞が微量に含まれている可能性があり、それが乳児の腸で増殖し毒素を産生するためである。大人と違い1歳未満の乳児は腸内細菌叢が未熟でありボツリヌス菌が増殖しやすい環境にあるために起こる。乳児ボツリヌス症の94%は6か月未満の乳児で症例の最高月齢は11か月の乳児である。ボツリヌス毒素は小腸で吸収され末梢神経と結合し弛緩性麻痺を起こす。呼吸障害が起こると死に至ることもあるが致死率は食中毒に比べると低く2%程度である。

芽胞はボツリヌス菌が悪環境に置かれたときに増殖をやめて作り出す耐久性の高い細胞で、再び適した環境に戻ると通常の増殖する菌体に戻る。

ちなみにハチミツは水分が17%、PH値3.8であり、低水分、高酸性度というボツリヌス菌が増殖困難な環境のためハチミツ内に存在はしても増殖することはない。

加熱すれば死滅するか

ボツリヌス菌は100℃で6時間加熱で死滅し、

芽胞は120℃で4分の加熱で死滅。(※Ⅰ群に属す毒素型の場合)

ボツリヌス毒素は85℃で15分(100℃で1~2分)加熱すると失活する。

毒素の失活は比較的簡単だが、菌と芽胞は熱に強く通常の加熱で死滅させるのは難しい。特に芽胞は100℃では死滅しないためオートクレーブ処理など特殊な方法が必要である。

ボツリヌス菌とは

ボツリヌス症が認識されはじめたきっかけは18世紀頃のドイツでのソーセージ食中毒である。そのためボツリヌスはラテン語でソーセージを意味するbotulusから名付けられている。

酸素のある場所では増殖できない偏性嫌気性菌であり、芽胞の状態で土壌、河川、海水など自然界に広く存在する。

ボツリヌス菌が作るボツリヌス毒素は神経毒に分類され、自然界で最も強い毒性を持つ。ヒトでの致死量は非経口的摂取の場合1.3~2.1ng/kgである。つまり70kgの人であればたったの0.09~0.15μg(経口摂取の場合70μg)で致死量となる。しかし安定性は低く空気中では12時間、日光下では1~3時間で失活し、規定塩素濃度を満たした一般の水道水中では20分で8割が失活する。ボツリヌス毒素は種類によってA~G型に分けられており、特にヒトへの病原性はA、B型が強い。

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum):クロストリジウム属/偏性嫌気性菌/グラム陽性菌/有芽胞/杆菌

乳児ボツリヌス症の発症例

国内では1986年に初めて乳児ボツリヌス症が報告された。原因はハチミツであったため1987年に厚生省から注意喚起があり、乳児にハチミツを与える危険性が周知されるにしたがって1990年以降ハチミツが原因である症例は激減した。しかし、ハチミツ以外の食品等を原因とした報告例は年に1例程度ずつ増え2016年時点で32例が報告されている。

ボツリヌス菌の芽胞はわずかな塵などにも潜んでいるため、感染源が特定できない例が多い。判明している例では、自家製野菜スープによるものと、井戸水によるものが報告されている。

2017年には国内で初めて乳児ボツリヌス症での死亡例が発生した。加えてハチミツの摂取が原因だったため、改めて乳児にハチミツをあたえる危険性が周知されることとなった。